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東京高等裁判所 昭和47年(く)220号 決定 1973年1月12日

少年 K・S(昭二八・四・一九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の要旨は、東京家庭裁判所は、昭和四七年一〇月一八日医療少年院に送致する旨の決定をしたが、自分が空壜二四〇円相当のものを盗んだことと梅毒にかかつていることとを理由に医療少年院に収容するのはあまりにも不当に重い処分であるから、右決定の取消を求めるというにある。

よつて、本案記録を調査し、当裁判所の照会に対する神奈川県大和市立○○小学校長の回答書を総合して検討すると、原決定が問題点並びに処遇上考慮すべき点と題する項目において、少年を医療少年院に送致する理由として説示するところは、当裁判所においてもこれを是認することができる。

もつとも、少年の本件非行は、ペプシコーラ一二本入空壜(価格二四〇円相当)を窃取したという軽微なものであること、原審当時不明であつた氏名、卒業小、中学校、学校在学当時収容されていた施設等が当審に至つて判明したのであるが、少年は本件非行当時勤務先をやめ、競輪通いをしており、所持金を使い果し、電車賃にも窮し、本件非行に及んだものであること、当時梅毒にかかつていて、長期間にわたる駆梅療法が必要であること、少年にはこれを保護すべき身寄りも勤務先もなく、在宅保護の措置では、少年の保護育成に欠けるところがあることなどを総合すれば、医療少年院に収容して梅毒の治療をするとともに、矯正教育を施し、心身の立直りを期待するのが適切であると考えられる。したがつて、少年に対する原決定の医療少年院送致の処分をもつて著しく不当に重いものであるとすることはできない。

以上のとおり、本件抗告は理由がないので、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 真野英一 裁判官 吉川由己夫 高木典雄)

参考 原審決定(東京家裁八王子支部 昭四七(少)二〇四五号 昭四七・一〇・一八決定)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(一) 非行事実

少年は勤先をやめ、競輪通いをしていたが、昭和四七年九月二三日立川競輪で所持金を使い果し、電車賃にも窮し、立川市○○町×丁目××○雀○夫方庭先において、同人所有のペプシコーラ一二本入空びん木箱二箱を窃取したものである。

(二) 法令の適用

刑法第二三五条

(三) 問題点並びに処遇上考慮すべき点

(1) 当裁判所の調査の範囲では、少年の生活歴、その他不詳のことが多く、少年自身真実忘れたのか敢て語らぬのか、本人からさえ事情をくわしく聴くことができなかつた。

(2) 診断の結果によれば梅毒と判定され、長期間にわたる駆梅療法が必要と認められる。さしあたつてはその治療を施しつつ矯正教育を行うことが期待される。

(3) 折にふれ個人的な接触を重ねるうちに、本人の記憶をひき出し、過去を明らかにすると共に、将来のしつかりした身のふり方をきめることが望ましい。

(四) 少年の要保護性はとうてい在宅保護の措置ではこれを除くことができないものと認められるので、少年に対して病気の治療並びに矯正教育を施し心身陶冶の機会と更生の機縁を与えその健全な育成を図るため、少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

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